現在展示中の写真家、草野 庸子。
QUIET NOISEのスタッフでもある錦 多希子と交わした往復書簡からは、飾らない、気取らない草野 庸子の素顔が垣間見えました。
草野 庸子さま
こんにちは。
個展初日のレセプション、多くの方が駆けつけてくれたようですね。
知人友人たちのSNSの投稿から、熱気のあるようすがよく伝わってきました。
週明けの月曜日、庸子さんに贈られた数々のお花に見守られた会場のQUIET NOISEで、ようやく作品を拝見しました。
断片となった日常のかけら。
疾走感、けだるさ、光、闇、美しいもの、取るに足りないこと…。
脈絡なく並列された写真たちが並びます。
庸子さんの日常の目撃者となってしまった…!
少しばかりの後ろめたさと、膨らみゆく好奇心とがぶつかりあうような心地です。
一枚一枚がそれぞれにパワーを放ち、混沌としてうずを巻いているのを感じました。
気を抜いたら、観ているこちら側も呑み込まれそうなほど。
この危うい感覚は、生身の人間が、
今ここで体験していることを感じたその瞬間にシャッターを切ったものだからでしょうね。
庸子さんもこのなかの世界の当事者だからこそ、捉えられたのだろうと思います。
身体感覚を伴った、力強い写真にすっかり圧倒されました。
言うまでもないことですが、SNSから流れてくる写真にありがちな、
見栄え良く仕立てて撮った「つくりもの」感のあるそれとは対極にあることなど、一目瞭然です。
美醜・善し悪しという杓子定規から放たれた、まばゆく一瞬が確かに存在していたということ。
この事実が写真の画面に定着して、痕跡となります。
生きた軌跡を残すようなことは、生半可な気持ちではできないことでしょう。
庸子さんの写真と対峙するときには、息を呑むような緊張感がほとばしります。
ひとつ、どうしても聞いてみたいことがあります。
今回、撮影した写真作品を写真集に編纂し、一方でプリントしてギャラリーに展示しています。
「展覧会」と「写真集制作」という、同じようで異なるこのふたつの行為を同時進行で進めてきました。
スピード感や温度感だって違うだろうし、なにより印刷物という二次元と空間という三次元という物理的な差異もありますよね。
このふたつの行為、庸子さんにとってどのようなものなのでしょうか?
その最中にいたときの心持ち、写真家としてのスタンスを聞かせてもらえたら嬉しいです。
錦 多希子
錦 多希子 さま
初めまして。
展示、いらして頂けたようで嬉しいです。
とても嬉しい感想、ありがとうございます。
「展覧会」と「写真集制作」という、同じようで異なるこのふたつの行為を同時進行で進めてきました。
スピード感や温度感だって違うだろうし、なにより印刷物という二次元と空間という三次元という物理的な差異もありますよね。
このふたつの行為、庸子さんにとってどのようなものなのでしょうか?
その最中にいたときの心持ち、写真家としてのスタンスを聞かせてもらえたら嬉しいです。
上記についてですが、確かに御指摘頂いた通りだと改めて気づかされました。
ちょうど、写真集のリリース、展示準備、のタイミングで遠方の仕事があり1週間弱浜松におりました。
日中撮影をし夜ビジネスホテルに帰り、パリッとした静かな部屋で1人パソコンで展示模型を作る、という作業は非常に淡々と寂しく、自分の写真たちを俯瞰で見ていた気がします。
写真という2次元のものを立体的にみせ、3次元に溶け込ませるというのは不思議な感覚でパソコン上で構成をして見てもやはり想像がつかないものです。
設営当日もディレクターの井上さんに御協力頂きどうにかこうにか完成いたしました。
オープニングレセプションの3日、たくさんの友人、仕事関係の方、初めましての方がいらしてくださり
会場がパンパンで、そこには好きかってしゃべっている組、外でタバコを吸っている組、光春の前でしゃがんでいる組、しまいには外でバナナを食べている人もいたりなんかして
それは本当にわたしが撮ってきた日常そのもので まるで写真の中からみんなが出てきた!かのような感覚に陥りました。
2次元のものを3次元空間に配置することで、狭間にまたひとつ新しい時空を作ってしまったような、、
写真集制作については デザイナー、出版の子と逐一相談をしながら進めていましたが
膨大な一年強の自分の撮った写真たちを見返し、頭の中で一枚一枚理解しセレクトすることは とても吐き気を伴った作業で 1番つらかったかもしれません。(笑)
展示はわりと自分の写真を俯瞰でみる作業的な行為であり、写真集については自分の内面の見えないふりをしていた部分、忘れたふりをしていた部分をむりやりこじ開けるような
自己との対峙的な作業でありました。
すみません、質問に答えられている気がしないのですが、、
一旦区切り、お送りさせてください。
草野庸子
展示情報はこちらからどうぞ
http://www.quietnoise.jp/event/kusano-yoko-exhibition-everything-is-temporary.html
【 錦 多希子 (にしき たきこ) 】
1984年東京生まれ。2012年より東京・恵比寿にあるアートブックショップ+ギャラリーPOSTに勤務。店頭対応のほかに、ウェブサイト上で新着本の紹介を更新する。その傍らに、CLUÉL hommeやPen onlineでの連載、nostos booksのwebコラムなどの執筆を手がける。
QUIET NOISEではスタッフとして月に1回、店頭に立っている。
http://www.post-books.info