対談:SLOW HOUSE 店長 柏木嘉奈子さん × QUIET NOISE arts and break 店長 井上裕子
アートへの“敬語”と“過保護”をやめてみることのススメ
テキスト & インタビュアー: 内海織加
昨年の夏より、天王洲のライフスタイルショップ「SLOW HOUSE」とのコラボレーション企画として、定期的にQUIET NOISEがオススメする作家のアート作品を展示しています。
スタイリッシュなインテリアや暮らしの雑貨が並ぶ店舗での展示は、真っ白でシンプルな空間であるギャラリーでの展示とは、雰囲気も方法も全く異なりますが、
暮らしに近いシチュエーションでアートを展示することは、それぞれに願ってきた夢を現実化するための第一歩とも言えます。
今回は、〈暮らしの空間とアート〉をテーマに繰り広げられた「SLOW HOUSE」の店長 柏木嘉奈子さんとQUIET NOISEの店長 井上裕子の対談をお届けします。
気に入った作品を持ち帰ったあとをリアルに想像してもらうために
ー「SLOW HOUSE」では、現在、天野タケルさんの展示を行っていますよね。
今回、コラボレーションの展示としては4回目ですが、もともとはどんなきっかけでスタートしたのでしょうか?
井上:QUIET NOISE(以下、QN)は、アート作品を見ていただく場ではあるのですが、その根底には、アートのある暮らしを提案したい、という想いがあります。
わたしも数年前から作品を購入して家に飾るようになって、作品を所有するよろこびやそれを暮らしの中で目にする楽しさを実感しているので、
それを多くの方に知ってもらえたらいいなぁ、と思っています。
ギャラリーにいらっしゃるお客様にも、そういうお話しをさせていただいて、共感してくださる方も増えてきたのですが、
ギャラリースペースだとどうしても真っ白の空間なので、部屋に飾ったシーンをご提案するのは難しいんですね。
どうしたらそんなご提案ができるかなぁと思っていた時に、タイミングよく出会ったのが、柏木さんだったんです。
柏木:昨年の春くらいに「SLOW HOUSE」で展示とワークショップをやってくださった間弓浩司さんがQNで個展をされた時に、レセプションに伺ったのがご縁でしたよね。
「SLOW HOUSE」もそうなのですが、ライフスタイルを提案しているお店というとどうしてもインテリアがメインになってしまって、
そこにアートの提案てないんですね。オシャレなポスターは置いてあるけど、本物のアートは置いていない。
そういうことを、前々からほんの少し疑問に思っていて。
だから、天王洲の店舗を任せてもらえることになって、アートを含めた暮らし空間を提案することは、ぜひやってみたいことだったんです。
井上:それで、レセプション時に、立ち話でそんな話をしたら盛上がってしまって!
柏木:そうそう、いいですね!やりましょう!みたいな感じで(笑)そこからは早かったですね。
ー意気投合ですね!昨年の夏くらいに第一弾として、一筆描きの南出直之さんからスタートしたんですよね。
柏木:そうですね。
3つの作品をひとつの壁に並べて飾っていたら、そのバランスも含めて気に入ってくださったお客様がいて、そのままお買い上げくださったんです。
あの時は、この展示をやって本当によかったって思いましたね!
井上:本当にうれしかったですよね!
そういうことが起こるのは、インテリアや雑貨などの暮らし空間にアートがあるからかもしれません。
お客様が作品を自分の部屋に飾った姿をリアルに想像することができますし、アートを買ったことがない方もアートのある暮らしを想像しやすいですよね。
それに、こうやって飾るといいんだっていうことがわかりやすいというのがいいと思います。
柏木:今、店舗で開催している天野タケルさんの展示では、同時に天野さんの絵のクッションの販売もしているんですけど、
クッションだとアートとインテリアのちょうど間という感じもあって、アートを買ったことがない方でもトライしやすいのかなと思います。
井上:そうですね。ソファにクッションが並んでいて、素敵でした!
3月12日(日)には天王洲店で、18日(土)には二子玉川店で、クッションを購入された方には天野さんが似顔絵を描いてくださるっていうイベントもあるんですよね!
とっても楽しみです!
ーそれは豪華な企画!天野さんのクッションは、インパクトのある絵柄でお部屋のアクセントにもなりそうですよね!
心の内へのアクセスポイントを部屋の中に置くという楽しさ
ーちなみに、普段からお客様のアート作品への反応や感心についてはいかがですか?
柏木:アートに限ったことではないのですが、ここ1、2年で特に感じるのは、お客様の中での豊かさに対する価値観が変化していること。
高級な家具を買うということより、暮らしそのものを豊かにしたいという気持ちが強くなっているのを感じます。
インテリアの選び方を見ていても、自分にフィットするものを自由に選んでいる風潮がありますね。テーブルと椅子がセットじゃなくてもいい、みたいな感じで。
井上:なるほど。
確かに、モノを買うっていうことが自己表現のひとつになってきている気がしますね。
単純に道具として買うのではなくて、なにをどう買うのかっていうところも含めて、見つめ直している人が多いのかなって。
柏木:取り巻く情報が多すぎるので、ちゃんと選ばないといけない、って本能的に意識せざるを得ないのかもしれませんね。
一人ひとりが、たくさんのモノがある中で「これ!」ってチョイスする力がついてきたというか。
自分に一番しっくりくるものを検討する行為って、自分の内側を見つめ直して、そして自分自身を整える作業でもあるのかなって思ったりもします。
井上:確かにそうですね。
情報に流されず自分に合ったものを選ぶ人が多くなっている中で、アートを部屋に飾るっていう行為も、自分の内側と向き合うという意味で
今の時代にフィットしているんじゃないかって思っているんです。
柏木:まさにそう思います。
アートって、暮らしの中の余白みたいなものかなって。
四角い空間に丸いものを置くと余白ができるじゃないですか。その余白をどうするか、っていうところをお客様自身が楽しんでいる感じがしますね。
ー暮らしの中に遊びごころを持てる方が増えているのかもしれませんよね。
インテリアを頻繁に変えることは難しくても、テーブルウエアやリネンで気分を変えることはできる。アートって、その延長に存在できる気がします。
井上:そうそう、アートって印象づける力が強いから、まわりの空間も含めて印象が変わるんですよね。
コンパクトな我が家でも、その気分や空気の変化は感じています。QNでも「SLOW HOUSE」でも、展示が変わる度にその雰囲気の変化を感じているんですけど、
それが本当に楽しくて!
柏木:わかります!
アートを部屋に飾ると、雰囲気も変わりますけど、不思議と心の持ち方が変わるんです。
ちゃんと部屋を整えようと思いますし、自分の空間が愛おしくなりますよね。
ーアートって見る時のコンディションによっても感じ方って変わるから、そういう意味でも内側と向き合うきっかけになりますよね。
今日は作品と目が合った時にどう感じるかって、ある種のバロメーターというか、“心の窓”みたいな役割もあるかもしれません。
美術品として過度に崇めず、好きなものと組み合せて自由に
ー「SLOW HOUSE」での展示は、毎回絶妙なバランスで飾っていて素敵だなぁと思うのですが、アート作品を部屋に飾る時のポイントはありますか?
柏木:インテリアとして飾る時のセオリーみたいなものはあるんですけど、「SLOW HOUSE」での提案としては、その辺のルールみたいなものは重要視していません。
その代わり、アートと何を合せるか、を意識しているんです。
井上:作品単体ではなく、何かとの組み合わせで飾るっていうことですか?
柏木:そうなんです。
作品自体は気に入ってくださるんですけど、部屋に合うかどうか不安という方もいらっしゃいます。
そんなお客様には、アートと自分の好きなものをラフに掛け合わせることをご提案しています。
例えば、緑の絵だったら、作品の近くに緑の植栽を置くとか、緑系の小物を置いてみるとか。そうすることで、アートと空間をうまく中和してくれるんです。
井上:なるほど。共通の色で合わせていくことで、部屋に馴染ませていくような感じですね。
柏木:そうですね。
同じ色じゃなくても、モノトーンの作品の近くに、何か切り花の一輪挿しを置くとするじゃないですか。
そうすると、その花によって作品の見え方って少し変わると思うんですよ。そういうことで雰囲気を変えたり、遊びをいれることもできますよね。
ーモノトーンの服に何色の靴を合せるか、みたいなことに似ていますね。
柏木:そうですね。
わたしは、作品の近くにかっこいいなぁと思ったフリーペーパーを貼ったりしてるんですけど、そんな感じでもっと自由に楽しんでいいと思います。
海外の方って、そういうのがとっても上手な方が多いんです。好きなものを集めてるだけってご本人は言うんですけどね。
でも、難しく考えずに、そのくらい気軽に身近なものと組み合せていくといいと思います。
アートって、格式の高い美術品として接するものではなくて、もっと楽しんでいいものだと思うんです。
ーなるほど!アートを過保護にしすぎないというか、アートへの敬語をやめてみる感覚というか。「アートさま」って崇めるるのではなくて、友達みたいな距離で向き合えそうですね。
井上:確かに、その感覚わかります!
柏木:そうですよね。まだ、日本だとアートへの敷居が高いですよね。
ー飾ることにも緊張感があるんでしょうね。
柏木:そうですね。
お客様にもお話しするんですけど、自分の好きなものコーナーを作るところからスタートするといいのかなって思います。
ご家族がいると気をつかうところもあると思うんですけど、それぞれの好きなものコーナーがあれば、そこの中でお気に入りのアートや雑貨を並べて自由に楽しむことができる。
わたしは「キラキラスポット」って呼んでるんですけど、お部屋にそういう一角があることで、気分があがりますよね。
井上:キラキラスポットいいですね!
柏木:お部屋くらいは、目一杯の自己表現があってもいいんじゃないかって思います。
ルールに囚われず、楽しんでほしいですね。「SLOW HOUSE」の中でも、植栽や雑貨との組み合わせを意識した展示をしているので、ぜひ、参考に見にきていただけたらうれしいです。
井上:この取り組みをきっかけにアートのある生活を是非多くの方に体感し、自分なりのスタイルで楽しむ人の輪を広げていけたらうれしいですね。
ー暮らしという視点からのアートの楽しみ方、とっても参考になりました。また、今後もQNと「SLOW HOUSE」との取り組みを通じて、一人でも多くの方にアートのある暮らしの楽しさや豊かさを知っていただけたらいいですね。柏木さん、ありがとうございました!
撮影場所:SLOW HOUSE天王洲店
東京都品川区東品川2-1-3
03-5495-9471
http://tokyo.slow-house.com/
《現在開催中の展示・関連イベントの詳細はこちらからどうぞ》
http://www.quietnoise.jp/news/0050
【 柏木 嘉奈子 (かしわぎ かなこ) 】
ーSLOW HOUSE 天王洲店 店長ー
2004年からアッシュペーフランスに10年在籍。
バイヤー、北南米ブランドの営業、ブランドマネージャーを経て2014年に退社。
その後、アクタスに入社し、青山店に勤務後、SLOW HOUSE本店の立ち上げメンバーとしてSLOW HOUSEブランドに移る。
現在は店長としてアート企画を始めとした様々な企画を行う。
【 内海 織加 (うちうみ おりか) 】
ー編集者/ライター/QUIET NOISEスタッフー
新潟県生まれ。ライフスタイル提案やカルチャー記事、インタビュー記事を中心に幅広いジャンルで執筆。ライフワークは、訪れる先々での狛犬チェック。好きなアートの楽しみ方は、気になったものを全力で浴び、じたばたせずにじっと待って、最後の最後に残ったものをじっくり観察する、というもの。実は、「QUIET NOISE」の名付け親でもある。